東京地方裁判所 昭和27年(ワ)1910号 判決
「原告はもと板橋区上板橋一丁目五六番地の約六十坪の借地に家屋を所有し酒商を営んでいたところ、終戦後東武鉄道株式会社より駅拡張のため右土地を必要とするのでその明渡を求められこれを応諾し、右会社は本件土地を提供し、これに原告の家屋を建築することになつたが、敷地については原被告間の交渉により昭和二十四年五月十五日二十五坪を代金三万一千二百五十円契約と同時に二万円支払い残額支払と同時に所有権移転登記をすることを約し、その後分筆登記をするからとて八千円の支払請求があり同年十月三十一日支払つたがその登記がなかつたものであり、右二十五坪は本件土地の西北部の予定であつたが、その西北隅はほぼ三角となり狭小で建築に不便なため東南部に(別紙第二図面BE線迄)広くし、原告の建築を請負つた上川光治と被告との間に原告主張の区域とすることに了解があり、ここに原告の家屋を建築したものなること、被告はその東南の隣りに家屋を建てたが右境界線(BE線)を超えて建築したものなることを認めることができる。
よつて、右土地の部分につき所有権の確認とその分筆及び移転登記並に境界線を超えた建物と境界線より一尺五寸にある建物の部分の収去を求める原告の本訴請求は、理由あるようだが本件二十五坪の範囲は初め東北部の三角形類似の不便な土地を含めて予定されていたのを、原告側の住家の都合にて三角形類似の部分を除いて西南部の便宜のよい部分まで広げることを被告に於て承諾したこと、従つて右三角形類似の部分は被告に於て利用価値の乏しいものとなつた経過を考えるときは、被告の建物の僅少の部分が境界線を超え(多い所で一尺五寸)又は被告の建物が民法第二百三十四条の規定するように境界線より一尺五寸を距ててないことを事由としてその部分の除去を求めるのは信義則に反し権利の濫用と目すべくこの部分の請求は認容することができない。」